女性と同じように、男性にも更年期障害があります。

女性のように閉経や、頭痛、顔のほてりといった分かりやすいサインがあるわけではなく、個人差も大きいのですが、何となく憂欝な気分に苛まれる、やる気が出ない、寝つきが悪くなる、疲れやすいといった症状とともに、性欲がなくなった、早朝勃起しなくなったなど性機能に関連する変化も現れてきます。

加齢によるこうした心や体の変化は、男性ホルモン(テストステロン)の減少によってもたらされるものです。

男にとってとても大事なものなのに、普段あまり意識されることのない、男性ホルモンについてお話ししてみたいと思います。

カギを握る「テストステロン」

テストステロンは、男性の場合、精巣でつくられます。

「男性の場合」と言いましたが、男性ホルモンは実は女性も持っていて、その分泌量は閉経後もあまり減少しないことが分かっています。

会社をリタイアしたりすると、とたんに「枯れ尾花」になってしまう男に比べ、中高年女性が相対的に元気で活動的なのは、そのおかげだともいわれているのです。

そんな話からもうかがえるように、テストステロンは冒険心や行動力を司る、いわば「やる気ホルモン」。

急激に低下するようなことがあれば、いろいろ困ったことが起きるのも当然だといえます。

ただ、性機能障害との関係で捉えると、「テストステロン値が低下すると、勃起障害になる」と単純に言うことはできません。

テストステロン濃度と勃起は相関しない、すなわち値が高くても勃起障害の人もいれば、低くてもちゃんと勃起できる人もいる、と海外の論文では報告されています。

一方、ストレスホルモンであるコルチゾールが高くなると勃起障害が増える、という研究に昔私は携わったことがありました。

しかし、中には後述する性腺機能障害などにより、テストステロン濃度が病的に低いために勃起ができない、という患者さんもいます。

そういう方にテストステロンを補充してあげると、EDが改善することがあるのです。

だから、テストステロンと男性機能がまったく無関係というわけでもない。

何とも複雑な間柄と言うしかないですね。

一般的にはもともとテストステロンの値の低かった人の濃度が多少落ちてもあまり影響はないけれど、高かった人の値が大きく減った場合には、相応のダメージを受ける、という傾向があるようです。

テストステロン値を上げるには

いずれにしても、低下したテストステロン値は、上げるのが好ましい。

男性更年期の治療によく用いられるようになったのが、今も述べたテストステロン補充療法です。

補充の方法には、日本では一般的に注射(エナルモンデポ)が使用されます。OTC薬(市販されている薬)として、塗り薬(グローミン)も購入が可能です。

海外では、飲み薬や貼り薬、それにカプセルの皮下への埋め込みといった、いろいろな治療も行われています。

私も、男性更年期障害の症状を訴える患者さんを数多く診察しましたが、そういう方には、積極的にテストステロン補充療法を行いました。

ホルモン値がそれほど低くない場合でも、とりあえず一回注射を打ってみて、経過を見るのです。

すると、劇的に症状が改善する例が、いくつもありました。

検査結果で出るテストステロンの値の中でも、活動性があるもの(バイオアベイラブル・テストステロン)とないものがあり、それらによって結果に差が出るのではないかと考えています。

また、日本では活動性のテストステロンの値を反映するフリーテストステロンを測る、という方法も一般的です。

繰り返しになりますが、急激な女性ホルモンの減少、閉経という「分岐点」のある女性に比べ、男のテストステロンの減り方は緩やかで、症状は徐々に進行します。

だから、やっぱり「歳なのだから、多少の体調不良は仕方ない」となりがちなのですね。

でも、放っておけば、問題は更年期以降も続きます。

加齢に伴う性障害や体に起きる症状について

「メタボリックドミノ」の項でご紹介した熊本先生は、著書『男はなぜ女より短命か」(実業之日本社)の中で、そうした「テストステロン低下症候群」を次のようにまとめていらっしゃいます。

更年期障害(四0~六O歳)…

①性機能・勃起障害(男の生理・生活力の低下)
②女性と閉じ自律神経障害(ほてり・動停・寝汗など)
③うつ反応及び認知症(精神力低下)
④メタボリック症候群(代謝障害)

熟年期障害(六O~八O歳)更年期障害と併発していることも多い…

①いわゆる体調不良(疲れやすい)
②肩・腰・背中などの痛み
③手足のむくみや関節痛

高年期障害(八O歳以上)…

①認知症・アルツハイマー病
②ロコモティプ症候群(骨・筋肉の機能低下)
③虚弱症候群(免疫力低下)

反対に、世の中には七O歳になっても八O歳になっても、元気な男性はたくさんいます。

そうした「活力」とテストステロンは深く関係していることを、ぜひ知っていただきたいのです。

こうした加齢に伴う症状とは別に、若者に起こる性腺機能障害(脳の下垂体や精巣の機能障害により、テストステロンが低下する状態)にも、男性ホルモン補充療法が行われます。

治療の結果、骨ミネラル濃度の向上、筋肉量及び筋力の向上、貧血の改善、糖尿病予防、性欲増進のほか、精神的な意欲の向上にも結びつくことが分かています。