「排卵日だからお願いね」が生む悲劇もある

勃起障害には器質性と心因性があります。

日本で推奨されている不妊治療に、「タイミング法」があるのはご存知でしょう。

女性の体温から排卵日を推測し、その日に合わせてセックスする、という方法です。

卵巣から卵子が放出されるのを狙い撃ちにするのですから、「無駄撃ち」はなくなり、妊娠の確率は高まるはず。

ネットには基礎体温の測り方などが詳しく載っていますし、それ用のスマホのアプリなどというのもあります。

確かに、科学的で合理的。ところが、そう単純にいかないのが、男のココロなのでした。

結論から言うと、このタイミング法が肌に合うカップルと、そうでないカップルがいる。

それをやったがために、逆に子どもがつくりにくくなるケースもあるのだ、ということを知ってほしいと思います。

タイミング法で逆に不妊に悩むことも

興味深いデータがあります。

「平常時」には、平均月四回セックスしていたご夫婦たちが、タイミング法で子づくりを決意したとたん、二回程度に減ってしまったのです。

まあ、セックスの目的を子づくりに特化するのですから、当然の帰結と言えば言えなくもありません。

それで一発必中といけば、「めでたし、めでたし」なのですが…。

そうした環境に置かれると、男の心理は「今夜、必ず成功させなければ」という方向に、どうしても行きがちです。

大なり小なり、プレッシャーを感じてしまうわけですね。

朝、奥さんに「今日はあの日だから、早く帰ってよ」と言われて家を出てから、会社で仕事をしていても気もそぞろ、というような男性のいかに多いことか。

見かけと違って、男というのはナイーブにできています。

勃起というのは、副交感神経が優勢でないと、すなわちリラックスしていないと難しい、という話を思い出して下さい。

交感神経の働いた緊張状態だと、「勃つものも勃たない」のです。

結果、すわ鎌倉という時に「役に立たなく」なってしまう。

それを奥さんになじられていっそうプレッシャーは増していく…。

日本生殖医学会で発表された日本国内での調査によれば、不妊を理由にタイミング法を始めた男性の、実に三五%が勃起障害ないし射精障害を起こしたといいます。

不妊のクリニックに通っている人が対象の調査なので、もともと性機能障害のリスクを抱えていた可能性はありますが、子どもをつくりたい一心で始めたことによって、三人に一人の男が「できなく」なってしまうというのは、笑えない話です。

私の患者さんに、こういう方がけっこういます。

子づくりのプレッシャーから、勃起障害になってしまった。

そこでPDE5阻害薬を処方したところ、うまく勃起を取り戻し、めでたく初めての赤ちゃんができました。

その結果、どうなったか?赤ちゃんができた後は、なんと薬を飲まなくても勃起できるようになったのです。

何が彼の勃起を妨げていたのか、明白ですよね。

不妊を成功させたければ「溜める」より「適度に出す」

実は、米国生殖医学会(ASRM)のガイドラインでは、排卵日などに関わりなく「毎日もしくは二日に一度のセックス」が勧められています。

世界の中でもセックスの回数が少ない日本人にとって、「一日おきのセックス」というのも、それはそれで辛いものがあるかもしれませんが、要はなるべく「規則正しく」、できるだけ自然な環境で子づくりに励む、ということも大事なのです。

余談ながら、「セックスの回数を減らせば、それだけ「濃い」精子が貯まるから、妊娠しやすくなる」と信じている人はいませんか?

放出されなかった精子は、寿命が来れば死んで、体に吸収されてしまいます。

また、精巣(タマ)でできた精子はその通り道である精巣上体、精管、前立腺にいる間に老化のストレスである酸化ストレスからダメージを受け、弱ってきているのです。

射精の間隔を一ヶ月あけたから一ヶ月分の精子が出てくるなんてことはありえません。

むしろ適度に射精して、精子をなるべく新鮮な状態に保つほうが好ましいのです。

子作りは夫婦の共同作業

話を戻せば、もちろん、排卵日を狙う、というやり方で妊娠に成功したカップルも、世の中には数多くいらっしゃいます。

「タイミング法はやめましょう」などと言うのが、私の本意ではありません。

ただ、何であれ「不妊に対処するセックスは、この方法しかない」というような固定観念に縛られるのは、よくない。

特に女性の方には、そこをぜひ理解していただきたいのです。

繰り返しになりますが、事ほど左様に、男は女が考える以上に繊細なのです。

そこも含めて、よくカップルで話し合って、自分たちに最適な方法を見つけていってもらいたいと思うのです。