頭髪を取るか、勃起を取るか

病気の治療やクオリティー・オブ・ライフ(生活の質)の向上に寄与する医薬品。

しかし、その副作用が男性機能に悪影響を与えることもあります。

新規のED患者の二五%が薬剤性だった、という報告もあるそうです。

では、どんな薬が勃起の妨げになるのでしょう?

例えば、血圧を下げる降圧剤。

血管が狭まって、血流量が減る高血圧自体がリスクファクターなのですが、降圧剤の投与でさらにペニスの血流が低下するため、勃起障害を起こすと考えられています。

三五八名の高血圧患者に関するある研究によれば、降圧剤を投与されている患者(二六ハのED擢患率は四0・四%で、無投与の患者(九一名)の一九・八%に比べて、有意に高い値が出ました。

ただし、同じ降圧剤でも投与される薬の種類によって勃起障害の発症率には大きな差があり、その原因ははっきり分かっていません。

また、うつ病も勃起障害のリスクファクターとなり、うつを適切に管理することにより、勃起症が改善します。

しかしその治療薬であるSSR-(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)などの抗うつ薬をはじめとする精神科の薬剤も、しばしば勃起障害を発症させることが知られており、薬の添付文書にはその旨が明記されています。

「多くの薬剤がEDを引き起こす」「薬剤性EDの援序(メカニズム)はまだよく解明されていない」としたうえで、こうした降圧薬、精神神経用薬のほか、ホルモン剤、抗潰蕩薬、脂質異常症治療薬、呼吸器官・アレルギー用剤といった広範な分野に属する薬を、表にまとめています。

薄毛とED

さて、EDとの関連から、ぜひ知っておいていただきたい薬があります。

男性型脱毛症(AGA)治療薬として、日本では二OO五年12月に発売された「プロベシア」(物質名目フィナステリド)です。

非常に効くと評判の薬ですね。

「男性ホルモンが多い男はハゲになる」「ハゲた人は精力が強い」。

こんな話を耳にしたことがあるでしょう。

俗説と片づけるわけにはいきません。

事実、頭髪と男性ホルモンの間には深い関係があるのです。

実はフィナステリドは、この男性ホルモンに働きかける薬です。

テストステロンが、活性型のデヒドロテストステロン(DHT)に変換されるのを妨げ、脱毛を防ぐのが、そのメカニズム。

ちなみにDHTの活性は、元のテストステロンよりかなり強力で、ドラゴンボールの「スーパーサイヤ人」にたとえる医師もいるくらいです。

恐怖のプロペシア

ところで、このDHT、髪の毛に作用するだけではありません。

前立腺やペニスにも存在し、勃起にも深く関わっているのです。

もうお分かりでしょう。DHTの産生が阻害されると、髪の毛が薄くならない代わりに、勃起障害になる可能性があるのです。

しかも、この副作用の結果発症した勃起障害は、不可逆性、すなわち「元に戻らない」という報告もありますから、注意が必要です。

あくまでも可能性ですが、「髪の毛がふさふさしてきで喜んでいたら、下半身では深刻な勃起障害が発症し、どんなED治療薬を飲んでも役に立たなくなってしまった」ということがありうる、ということです。

さらに、副作用はそれだけではありません。

DHTは頭の内側、脳でも働いています。

それが失われることにより、ひどいうつ状態を引き起こすことがあるのです。

EDにうっといえば、さきほど述べた「男性更年期障害」と似た状態(しかも重篤な)ですね。

これを「ポストフイナステリド症候群」といって、すでに米国では専門に研究する団体ができたり、患者が製薬会社を訴えたり、といった大問題になりつつあります。

実際に私も、ポストフイナステリド症候群と思しき患者さんを、何人も診ています。

ある男性は、「プロペシア」を飲み始めてから性欲が減退し、精液の量も減り、EDになり、同時に精神的にも落ち込むことが多くなって自殺まで考えた、とおっしゃっていました。

ネットで副作用のことを知り、怖くなって専門家の私のところに駆け込んできた、というわけです。

みんなに同じように副作用が現れるとは限りません。

また、ネット上ではいたずらに不安を煽るだけのような情報もたくさんあります。

そもそも「頭髪を取るか、勃起を取るか」は、自己責任による選択ともいえます。

ただ、薬を飲むことによって、そうした「究極の選択」をしているのだ、という自覚は持っていたほうがいいでしょう。

米国の学術誌には、フイナステリド服用中と服用中止後で、精子の数を比較したところ、中止後に約三倍に増加した、という論文が載りました。

この薬には、精子の数を減らす副作用も疑われるのです。

そうである以上、不妊治療を目的に来た患者さんが「プロペシア」を服用していた場合、私はとりあえずやめるようアドバイスしています。