喫煙がEDを引き起こし、精子のDNAを傷つける?

あなたがタバコを吸うのなら、百害あって一利なし、即刻やめるべきだ。

タバコが体に悪いことはいまさら言うまでもないが、生殖にも悪影響を及ぼす。

まず、ED (勃起不全)だ。

タバコを吸うと血管が収縮して、血流が悪くなる。

多数の血管が張りめぐらされている、いわば血管の塊のようなペニスには、これは大問題。

勃起の仕組みとして、ペニスにある海綿体に血液が流れ込むことで起こるのを知っている人は多いだろう。

体の血流が悪くなれば、海綿体への血液の流れも阻害されてしまう。

つまり、勃起しにくくなる。

ところで海綿体動脈の直径は、心臓の栄養血管である冠動脈よりも細い。

喫煙は、この冠動脈に狭窄を起こして、心筋梗塞の原因となるのはよく知られているが、実は心筋梗塞が起こる前にEDは発症するのだ。

また、タバコは精子そのものにとっても悪影響を及ぼす。

まず、喫煙によって、精子そのものの数が減ってしまう。

そして運動能力の高い精子の数も減る可能性がある。

また、喫煙による酸化ストレスで精子のDNAの構造が傷つけられるおそれもある。

精液中には何千万という数の精子が存在し、通常でもDNAに傷がついた精子は、ある程度は存在している。

しかし、この割合が増えるのは問題。

DNAが損傷した精子は、卵子のところに到達しても受精しにくく、また、受精して妊娠しても、正常な胎児にならずに流産しやすくなってしまうのだ。

そして、パートナーへの影響もある。

パートナーがタバコを吸わなくても、いっしょにいれば副流煙による受動喫煙の影響は避けられない。

女性の場合は、喫煙が妊娠・出産(生まれてくる子ども)によくないのは明らかである。

禁煙すべき本当の理由は、親としての責任

僕は喫煙者や肥満の人に生活改善を強く言う。

その最大の理由は、親としての責任だ。

禁煙や肥満が及ぼすリスクはいろいろあるが、ことに生活習慣病への影響は、もっと意識するべきだろう。

患者さんには、口を酸っばくして禁煙するように言っている。

僕が受け持っている関東の患者さんでは、ほぼ100%が禁煙する。

しかし、関西の患者さんでは、80%程度。

地域性があるようだ。

忘れられないエピソードがある。

神戸大学医学部附属病院にいた頃に男性不妊の治療をしていたある患者さんと、数年後、赴任した関東の病院でバッタリ再会した。

僕が「禁煙しなさい」と口うるさく言っていた患者さんのひとりだ。

そのとき、彼はストレッチャーに載り、排尿管理のために来院したのだ。

脳梗塞で倒れ、首から下はまったく動かせない。

これから自力で歩けるようになる見込みは薄いとのことだった。

「不妊治療をして、おかげさまで子どもを授かり、とても幸せな毎目だった。ところが僕の体は、もう前のようには戻らない。子どもが走り回るのを、ただ見ているだけ。一緒に駆け回ったり、肩車をしたり、キャッチボールをしたり…そんな当たり前の親子のふれあいができないのです」

彼は、涙ながらに続けた。
「あのとき、先生があれほど言ってくれたのに、僕はタバコをやめなかった。こんなことになるなら禁煙するべきだった。悔やんでも悔やみきれない…」

傍らで奥さんも涙ぐんでいた。彼の苦悩と後悔を一番よく理解して、夫の介護と育児に力を尽くしているはずだ。

もちろん、病気はタバコのせいだけではない。

だからこそ、努力で減らせるリスクは減らしたほうがいい。

子どもが成人するまでの養育の多くを妻が引き受けねばならないこと。

何より成長期の子どもと活動的に過ごせない悔しさは、いかばかりか。

僕も子を持つ親として胸が痛くなる。

考えてほしい。なぜ、不妊治療をするのか?夫婦ふたりの暮らしから、子どもを迎えてさらに幸せな家庭を築くためのチャレンジだろう。

なればこそ、親になる責任を意識してほしい。彼のエピソードは、僕らに「親になる覚悟として健康でいること」の重要性を教えてくれる。